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AIに投資した企業の60%は、その投資から実質的な価値(material value)を得ていない。 一方で同じ調査の中で、わずか5%の企業はAIを大規模な価値創出まで持っていっている。この記事では、その数字の中身と、5%側に回るために何が違うのかを、一次調査と実際の技術判断から整理する。

想定している読者は、すでにPoCを終え、「動くことは確認できた。しかし本番に進めていいのか、進めても金額として意味があるのか」で止まっている意思決定者である。

「60%」「88%」「7%」——実は違う質問への答え

2025年に発表された2つの大規模調査が近い時期に近い数字を出しているため、しばしば混同されて引用される。だが、測っているものが違う。

出典サンプル数字何を測っているか
BCG「Are You Generating Value from AI? The Widening Gap」(2025年)1,250社60%が実質的な価値ゼロ/35%が部分的にスケール中/5%が大規模に価値創出AI投資からの価値創出
McKinsey「The State of AI」(2025年)約2,000組織88%が業務でAIを利用/32%がスケール段階/完全にスケール済みは7%/39%がEBITへの影響を報告(多くは5%未満)導入の広がりと経済効果

McKinseyの88%は「使っているか」という質問への答えである。だが同じ調査の中で、完全にスケールしたと言えるのは7%まで下がり、EBITへの影響を数値で示せた組織は39%、しかもその大半は5%未満にとどまる。「使っている」と「金額として効いている」の間には、埋まっていない段差がある。

BCGの調査はさらに直接的に、投資からの価値創出そのものを尋ねている。60%が実質的な価値ゼロ、35%が部分的にスケール中、そして大規模な価値創出に至っているのは5%——「導入した」企業の中でも、金額に跳ね返っているのは一握りだということになる。

両調査を並べると同じ形が見える。「使っている」企業は多数派だが、「値段のつく結果」を出している企業は少数派で、しかもその少数派はさらに絞られていく。

よく引用される「6%」は、実は別の質問への答え

日本語圏の記事で「HBRの調査によればAIから価値を出せているのはわずか6%」という書かれ方をしばしば見かける。一次に当たると、これは誤りである。

HBR Analytic Services(Workato・AWS協賛の調査、603名の事業・技術責任者を対象に2025年7月実施)の6%が測っているのは、「基幹業務プロセスをAIエージェントに自律的に任せることを全面的に信頼している企業の割合」であり、AI投資から価値を得られたかどうかではない。43%は限定的・定型業務のみでAIエージェントを信頼し、39%は監視付き・非基幹業務に限定していると回答している。この調査が示しているのは「価値創出の失敗」ではなく「自律実行への信頼水準」である。

隣接する二つの調査結果が混ざって引用されると、数字自体は実在していても結論が変わってしまう。ここを確かめてから使うかどうかで記事の信頼性は変わる——という前置きも込めて、本記事ではBCGとMcKinseyの数字だけを価値創出の根拠として使っている。

では、5%と60%を分けているのは何か

BCGもMcKinseyも、何が分かれ目かまでは詳細に踏み込んでいない(BCG側は”AI Future-Built”企業の傾向として、意思決定の再設計やアップスキリングへの投資を挙げている)。ここから先は、LLLが私有LLM基盤の構築とPoC設計で実際に見ている構造的な観察であり、調査そのものの結論ではない。現場の技術判断からの仮説として読んでほしい。

分かれ目1:データの行き先を、着手前に決めているか

AI活用は一つの技術ではなく、「どのデータをどこに送るか」が異なる、性格の違う3つの構成のどれかを選ぶ作業になる——私有LLM(自社が管理するインフラの中で推論が完結する)、フロンティアAPI(OpenAI・Anthropic・Google等のプロバイダーのサーバーにプロンプトが送られる)、そしてハイブリッド(機微な情報は私有LLM側へ、それ以外はフロンティアモデルへ振り分ける)の3つである。

PoCの段階でこれを曖昧にしたまま進めると、本番移行の直前になって「この業務データを本当に外部APIへ送っていいのか」という法務・情報セキュリティ上の疑問が噴出し、そこで止まりやすい。60%側に多いのは、技術的に動くものを先に作り、データガバナンスの設計を後回しにしたケースだと考えられる。

分かれ目2:「動いた」ではなく「自社データで成立する」を検証してから投資しているか

生成AIのデモは、汎用ベンチマークやベンダーが用意したサンプルデータでは高い精度を示しやすい。だが、実際の業務文書・実際の質問パターンで同じ精度が出るとは限らない。ここを確かめずにハードウェアや長期契約に進むと、後になって「精度が足りない」「思ったより大きいモデルが要る」という話になり、投資が座礁しやすい。

自社のワークロードで先に検証してから金額の大きい意思決定をする——この順序そのものが分かれ目になっていると考えられる。

分かれ目3:モデル規模の選定に、ワークロードに基づく根拠があるか

「大きいモデルほど良い」でも「小さく始めれば安全」でもない。実務水準を満たす下限として32Bクラス、社内向けChatGPT相当の既定値として70Bクラス、同時利用が多い組織向けの122B-A10B、そしてトリアージ・ガードレール専用で回答用途には使わない35B-A3Bまで、用途によって適切な規模は変わる。量子化についても同様で、FP8を下回ると(例えば4bit量子化まで下げると)日本語業務タスクの精度が測定可能なレベルで落ちる、というのが実測に基づく知見である。

規模の選定に根拠がないまま「とりあえず動くもの」を選ぶと、過剰投資か精度不足のどちらかに振れやすい。

まとめ:数字が教えてくれること

60%と5%を分けているのは、AIそのものの性能差ではなく、着手前に決めるべきことを決めてから投資したかどうか、という順序の差である可能性が高い。BCG・McKinsey、いずれの調査も、「使い始めた」段階と「金額として効いている」段階の間に、埋まっていない段差があることを一致して示している。

PoCを終えて止まっている場合、次に必要なのは「もっと大きなAIを試す」ことではなく、データの行き先・検証の順序・モデル規模という3つの問いを、自社のワークロードに対して具体的に決め直すことだと考えられる。


AI投資を、次の一段に進める

私有LLM基盤の構築、AI開発、そして本番投資の前に自社データで成立するかを確かめる30日PoCについて、LLLが提供している内容を以下にまとめている。

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